東京高等裁判所 平成2年(行ケ)61号 判決 1991年6月11日
ドイツ連邦共和国シルタッハ 七六二二 アム
ホーエンシユタイン 一一三アー
原告
ベーベーエス クラフト フアールツオイグテクニク アクチエンゲゼルシャフト
右代表者
ハインリッヒ・バウムガートナー
右訴訟代理人弁護士
竹内澄夫
同
市東譲吉
同
矢野千秋
同
前田哲男
右訴訟代理人弁理士
富田修自
同
堀明彦
同
鈴江孝一
同
池田清美
大阪府東大阪市長田西五丁目八〇番地
被告
株式会社 レイズ
右代表者代表取締役
斯波真澄
奈良県奈良市杉ケ町三五番地
被告
株式会社 クリムソン
右代表者代表取締役
西田亘雄
右被告両名訴訟代理人弁理士
水野尚
同
横山浩治
同弁護士
山本忠雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が昭和六三年審判第一六七一五号事件について平成元年九月二一日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決
二 被告ら
主文一、二項と同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、意匠に係る物品を「自動車用ホイール」とする意匠登録第七三六六五五号意匠(昭和五八年七月二一日ドイツ連邦共和国においてした工業的意匠の国際寄託に関するヘーグ協定出願に基づきパリ条約四条により優先権を主張して同五九年一月二〇日登録出願、同六三年三月四日設定登録、以下、右意匠及び右登録を「本件意匠」及び「本件登録」という。)の意匠権者であるところ、被告らは、昭和六三年九月一三日、原告を被請求人として本件登録について無効の審判を請求した。特許庁は右請求を同年審判第一六七一五号事件として審理した結果、平成元年九月二一日、本件登録を無効とする旨の審決をした。
二 審決の理由
1 審決の理由は、別紙記載のとおりである。
2 別紙九頁一五行目以下の審決の認定判断のうち、本件意匠が別紙意匠目録一記載のとおりであり、同意匠の全体の構成及び各部の具体的な構成態様に関する部分(別紙九頁一七行目ないし一三頁八行目)、甲第一号証意匠(ドイツ雑誌「auto motr und sport」一九八三年六月二九日号一一頁掲載の図版、以下「引用意匠一」という。)が別紙意匠目録二記載のとおりであり、同意匠の全体の構成及び各部の具体的な構成態様のうち、別紙一五頁九、一〇行目(「太い線状部を図として浮彫状に現わし」たとの点)及び同一六頁九、一〇行目(「太い線状部が二本一対とした比較的太い起立状線」を形成しているとの点)を除くその余の部分、並びに甲第二号証意匠(前掲ドイツ雑誌一九八二年一二月二九日号三七頁掲載の写真版、以下「引用意匠二」という。)が別紙意匠目録三記載のとおりであり、同意匠の全体の構成及び各部の具体的な構成態様のうち、別紙一八頁四行目(「この・・・」)ないし八行目(「認められる」)、同頁一四行目(「多数の多角形の透孔を一連に設けて」いるとの点及び一九頁一七行目(「その先端・・・」)ないし二〇行目(「し、」)の各部分を除くその余の部分、二〇頁七行目ないし二三頁四行目の部分はいずれも認め、その余の部分は否認する。
三 審決の取消理由
1 引用意匠一が掲載された前掲ドイツ雑誌の発行日は昭和五八年六月二九日であり、右雑誌が本件意匠の登録出願日である同年七月二一日に頒布されていたかどうか明らかではないから、右雑誌は意匠法三条一項二号にいう「意匠登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物」に該当しない。したがって、審決は意匠法三条一項二号所定の刊行物に記載されていない引用意匠一を類否判断における対照意匠とした点において違法である。
2 審決には本件意匠と前記各引用意匠との類否判断を誤った違法がある。すなわち、自動車用ホイールの意匠においては、ディスク部が要部であることは異論のないところであるが、本件意匠はディスク部のスポークを分割構成し、センタープレート部にある内側スポーク部と外側スポークとの接合部に細線を現し、内外側スポークが太くて丸みがあり、全体として重厚で立体的な形態である。また、要部中の要部ともいうべきホイールの中心部分付近であるディスク部の内側部分のスポーク部の基本形状をY字状としたことにより内方が大きく五角形状に区画され、右Y字の垂直片部分がディスク部の中央に取り付けられたセンターキャップの中心に向けて集中する放射状の印象を強く惹起させる。特に右Y字状をなすスポーク状部はこの種物品において最も目立つ、要部中の要部ともいうべきホイール中心付近で突如としてその方向を変え、ホイール中心に向かう結果、看者の注意を強く引き付ける。また、センターキャップの厚みは、看者に重厚感を与える。
これに対し引用意匠一は、そもそも類否判断の中心をなすホイール中心寄り部分の構成態様が透彫りなのか浮彫りなのか不明であるところ、本来かかる重要部分が不明瞭な意匠をもって類否判断を行うこと自体不可能なはずであるから、これを可能であるとして右引用意匠一と本件意匠とが類似しているとした審決は、結局、類否の判断を誤ったものである。
仮に右部分が浮彫りと認定可能であるとしても、本件意匠と引用意匠一とは異なった印象を看者に与える。すなわち、まずリム部からみると、本件意匠は広幅の内方環状面に、偏平円柱状の上面を凹陥した下方に円盤上の縁を有するフランジ付きボルトを多数配設しているのに対し、引用意匠一は細幅のリムに半球上のリベットを多数配設しており、締金具及びリム幅の広狭において相違する。また、スポーク部についてみると、引用意匠一はスポークを一体形成してセンタープレートがなく、しかもスポークが細くて角張っており、全体として軽薄で平面的な形態であるため、前述した本件意匠と対比すると、両者の相違は顕著である。特に、引用意匠一はディスク内側部分の基本形状をV字状としたため、内方が小さい三角形状に区画され、センターキャップの中心に対して屈折した態様であり、またセンターキャップは薄く、その与える印象は軽薄である。以上の相違点のほか、リム、ディスク、センターキャップの各部の比率の相違、本件意匠はスポークがリングを介してリム部に接続するのに対し、引用意匠一は両者が直接接続すること、本件意匠にはリムリングはないが、引用意匠一にはこれがあること、本件意匠では多角形状の凹陥面が三段の環状帯をなすのに対し、引用意匠一は四段であること等の相違点があり、両意匠を全体としてみれば、両者が顕著に相違することは明らかである。
また、引用意匠二は、内外側スポークが細くて角張っており、全体として軽薄で平面的な形態であり、ディスク部内側の基本形状をV字状としたことにより、内方が小さい変形菱形状に区画され、センターキャップの中心に対して屈折した態様を現す点で両者は顕著に相違する。
しかるに、審決は、本件意匠と引用意匠一、二との間に存する前記のような顕著な相違点からすると両者が非類似であることは明らかであるのに、上記の相違点を看過し、両意匠の類否判断を誤ったものである。
3 以上のとおりであるから審決は違法であり、取消しを免れない。
第三 請求の原因に対する認否
一 請求の原因一及び二は認める。
二1 同三、1のうち、原告主張の雑誌の発行日及び本件登録の出願日については認めるが、その余は争う。
2 同三、2のうち、自動車用ホイールに係る意匠の要部がディスク部にあること、並びに本件意匠がディスク部のスポークを分割構成し、センタープレート部にある内側スポーク部と外側スポークとの接合部に細線を現し、内外側スポークが太くて丸みがあること、本件意匠のディスク部のスポークの形状がY字状であり、各引用意匠のそれがV字状であること、引用意匠一はスポークを一体形成してセンタープレートがなく、スポークが細くて角張っていること、引用意匠二は、内外側スポークが細くて角張っていることはいずれも認めるが、両者の意匠が顕著に相違しているとの点は争う。
第四 被告らの主張
一 引用意匠一の掲載されたドイツ雑誌は発行日に頒布されたものであるから、これが本件登録の出願日前に頒布されていなかったとの原告の主張は誤りである。
二 原告は、引用意匠一は、類否判断の中心をなすホイール中心寄り部分の構成態様が透彫りなのか浮彫りなのか不明であり、このような不明瞭な引用意匠をもって類否判断を行うことは不可能であると主張するが、同部分の線状部によって区画された部位が中間調子に現されていることからすると、同部分が浮彫状であることは明らかである。
そして、本件意匠と引用意匠一を比較すると、要部であるディスク部における両意匠の基調はいずれもクロススポーク状を呈するメッシュ状の構成態様であり、原告主張の各相違点は右共通点を凌駕するほどのものとは到底いえない。すなわち、原告は、スポークの形状がY字状であるかV字状であるかを強調するが、右部位の要部であるディスク部に占める割合は極めて小さく、右Y字をなす下辺の垂直片は極めて微細である上、右部位をY字状とする意匠は新規性、独創性に乏しいものであるから、原告の主張は要部における極めて微小、かつ、微弱な差異を強調しているもので微視的というほかはない。また、原告はカバープレートの有無及びスポークの太さや丸みを強調するが、右の相違点はディスク部の表面に現された太い線状部の奏する流れによってディスク部が一体的なものとして意図され、現された態様の中に包摂されるものである。また、スポークの太さや丸み等の原告主張の各相違点についても、これらは慣用された手法による部分的な僅かな変更か、いずれも局部的な微弱、微細な表現上の差異に過ぎず、両意匠の前記のような基調の中に包摂されるものである。
したがって、審決の認定判断に原告主張の違法はなく、原告の主張はいずれも失当である。
第五 証拠関係
証拠関係は、書証目録記載のとおりである。
理由
一 請求の原因一及び二の各事実は当事者間に争いがない。
二 取消理由1について
原告は、引用意匠一が掲載された前掲ドイツ雑誌の発行日は昭和五八年六月二九日であり、本件登録の出願日である同年七月二一日に右雑誌が頒布されていたかどうか明らかではないと主張するのでこの点について判断するに、右雑誌の発行日が原告主張の日であることは当事者間に争いがなく、この事実によれば他に特段の事情のない限り、右雑誌は前記の発行日に頒布されたものと推定されるところ、他に右推定を左右する特段の事情の存在を窺わせる証拠はない。そうすると、右雑誌が意匠法三条一項二号所定の刊行物に該当しない旨の原告の主張はその前提を欠くものというべきであるから採用できない。
三 取消理由2について
1 本件意匠が別紙意匠目録一記載のとおりであり、その全体の構成及び各部の具体的な構成態様に関する審決の認定事実並びに引用意匠一が別紙意匠目録二記載のとおりであり、その全体の構成及び各部の具体的な構成態様のうち、別紙(審決の理由)一五頁九、一〇行目(「太い線状部を図として浮彫状に現わし」たとの点)及び同一六頁九、一〇行目(「太い線状部が二本一対とした比較的太い起立状線」を形成しているとの点)を除くその余の審決の認定事実はいずれも当事者間に争いがなく、引用意匠一のホイール中心寄り部分、すなわちディスク部中央付近のスポーク部の構成態様についてみると、成立に争いのない乙第一号証の一、二(一九八三年六月二九日発行「auto motor und sport」)によれば、同意匠のディスク部周縁部内側付近のスポークにより区画された空間部については、透彫りであることを示す暗調子により明白に表示されているのに対し、ディスク部中央のハブ部周辺のスポークによって区画された空間部については、透彫りであることを示す暗調子による表示は全くされていないことが認められること、ハブ部周辺のスポークによって区画された空間部が透彫りであるならばスポークのリアーリム部側の線が奥行きを示す線として現れるはずであるのにこれが見られないことなどからすると、ディスク部中央のハブ部周辺のスポークによって区画された空間部は浮彫りと認めるのが相当であり、これに反する甲第八号証の記載は採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。したがって、ホイール中心寄り部分の構成態様が浮彫りなのか透彫りなのか不明であることを理由として引用意匠一による対比判断を不可能であるとする原告の主張は、その前提において失当である。
また、引用意匠一のハブ部周辺の線状部の構成についてみると、前掲乙第一号証の一、二によれば、円形状をしたハブ部の周辺に沿って二本一対となった比較的太い線が起立状にV字形をなしてスポークとして外輪部の内周縁端に向かっていることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
2 そこで、前項の諸事実を前提として、本件意匠と引用意匠一との類否を以下に検討する。
(一) 本件意匠と引用意匠一とは、いずれも意匠に係る物品を自動車用ホイールとするものであり、その全体の構成はタイヤを装着する円筒体のリム部と車軸を取り付けるハブ部及びスポーク部を一体的に形成した略円盤上のディスク部からなり、ディスク部は前後のリム部の間にボルトによって固着され、ハブ部の中心部の前方側にセンターキャップを配する点において共通していることは前配のとおり当事者間に争いがない。
ところで、自動車用ホイールに係る意匠の要部がディスク部にあることは当事者間に争いがないので、以下、本件意匠と引用意匠一の各ディスク部を対比してみる。
(二) まず、本件意匠の具体的構成態様からみると、別紙意匠目録一によれば、本件意匠は外輪部の内周(ディスク部周縁部内側)からハブ部外周に至る空間のうち約三分の二を占める環状帯部分(外側スポーク部)に、略X字状の透彫りにした比較的太く、かつ表面隅部が丸みを帯びた形状のスポーク(但し、右X字の交点より下の部分、すなわち、ハブ部側脚部であるΛ部の内側は浮彫りである。)が同一間隔を置いて二〇個規則的に配列されている。続いて残りの約三分の一のハブ部の外周に至る空間の環状帯部分(内側スポーク部)には、右X字のハブ部側の各脚部から右空間の幅約三分の二程度に至るまで前同様の形状のスポークが浮彫状となって延長され、相互の接点から一本のスポークを形成し、その方向をハブ部中心方向に向け、ハブ部の外周にほぼ垂直に浮彫状で接続しており、その数は二〇本である。したがって、これをハブ部側からみると、右ハブ部の外周に接して、外側に向けた二〇個のY字状のスポークからなり、V字状に分かれた二つの先端が浮彫りにされたX字状スポークの脚部に接続され、また、互いに隣接するY字状スポークによりハブ部外周に沿って二〇個の五角形が区画形成され、さらに、各スポークにより変形菱形が区画形成されるが、いずれのスポークにより区画形成される空間も浮彫りとなっている。また、内外スポーク部の境界付近の円周上には細線が配されている。次にハブ部の構成をみると、円形状のハブ部のほぼ全体に略六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配している。
(三) これに対し、引用意匠一をみると、前掲乙第一号証の一、二によれば、同意匠は外輪部の内周(ディスク部周縁部内側)からハブ部に至る空間の約三分の二を占める環状帯部分(外側スポーク部)には、略X字状の透彫りの比較的細く、かつ角張ったスポーク(但し、右X字の交点より下の部分、すなわち、ハブ部側脚部であるΛ部分の内側は浮彫りである。)が同一間隔を置いて一九個規則的に配列されている。続いて残りの約三分の一のハブ部の外周に至る空間の環状帯部分(内側スポーク部)には、右X字のハブ部側の各脚部からそれぞれ前同様の形状のスポークが浮彫状にハブ部の外周に接するまで延長され、右接点で近隣の他の略X字のハブ部側脚部から右と同様に延長されたスポークと交わり、右二本の直線は外輪部に向かって大きく開いた変形のV字形をハブ部外周に沿って一九個形成している。そして、右の変形V字形の各片が近隣のそれと交互に重なりながら配列されていることからこれらは、ハブ部の外周の一部を一辺としてその外周に沿って一九個の小三角形と、右の変形V字形の延長部分は前記の略X字を、それぞれ形成している。次にハブ部の構成をみると、円形状のハブ部のほぼ全体に略六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配している。
(四) 以上の事実に基づいて、まず両意匠の類似点を検討してみると、両意匠はいずれも外輪部の内周からハブ部に至る空間の約三分の二を占める環状帯部分(外側スポーク部)に、ほぼ同数の略X字状の透彫りのスポークを同一間隔を置いて配していること、右略X字のスポークによって画される部分は透孔となっていること(但し、右X字の交点より下の部分、すなわち、ハブ部側脚部であるΛ部分の内側はいずれも浮彫りである。)、右環状帯部分からハブ部外周に至る環状帯部分(内側スポーク部)に浮彫状のスポークを配し、外側スポーク部と一体をなしていること、スポーク部は全体としてクロススポーク状を呈するメッシュ状に形成されていること、円形状のハブ部のほぼ全体にその頂部が略六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配していることにおいて要部であるディスク部全体の形態が類似し共通しているものということができる。
他方、前記説示からも明らかなように、両者は、<1>本件意匠のスポークの方が引用意匠一のそれに比較して太く、また、後者のそれが角張っているのに対し、前者のそれは隅が丸みを帯びている点、<2>本件意匠は内外スポーク部境界付近に細線を施し、センタープレートを設けているのに対し、引用意匠一はこれらを欠くこと、さらに、<3>前述したようなY字状とV字状及びハブ部外周に接する五角形と三角形の形状等の各点においてそれぞれ相違するほか、<4>別紙意匠目録一及び二により認められる本件意匠と引用意匠一におけるリム部の締金具及びリムの幅、リム、ディスク及びセンターキャップの各部の比率、スポークとリム部の接続態様、リムリングの存否並びに環状帯部分に存する凹陥面の数等においても原告の指摘する相違点が認められる。
そこで、右相違点について順次検討する。まず、<1>については、一般に線状部を形成するに当たり、表面隅部を角張った形状とするか、丸みを帯びた形状とするか、また、全体を太くするか、細くするかは、その用途において特に機能を害しない限り、ごく普通に選択される範囲に属する事項であり、両意匠に係る物品である自動車用ホイールにおいても、いずれを選ぶも機能的制約を受けるものではないから広く選択され得る形状であって、要は使用者の好みの問題にすぎず、そのいずれを選択したかにより、一方が他に勝り著しく異なった美的印象を看者に与えるというものと認めることはできない。次に同<2>については、原告自身も前記の分割線を細線と称するように目立つ存在ではなく、これによってスポーク部と太い線状部が奏する一体的な美的効果を分断するほどの効果を生ずるものとはいい難い上、別紙意匠目録三によれば、本件意匠の登録出願前において、既に引用意匠二が本件意匠におけるのと類似したカバープレートを採択していることが認められるのであるから、右相違点は本件意匠に固有の形態とまでいうことはできない。また、<3>についてみると、ハブ部外周に接する本件意匠の五角形状と引用意匠一の三角形状とをそれ自体で比較、対照してみた場合に、両者が看者に与える印象か全く同じであるとはいい得ないとしても、右形状の存する内側スポーク部は前述したように外輪部内周とハブ部外周の間の環状帯部分のうちハブ部外周付近に占める三分の一領域にすぎず、ディスク部全体としてみた場合、右部分に続きこれと一体をなすクロススポーク模様が全体として看者に与える支配的な印象を変更せしめる程強いものとはいえないし、成立に争いのない乙第三号証の一ないし六(昭和五七年三月一日発行「82輸入国産CAR用品カタログ」)によれば、本件意匠の登録出願前において、既に、本件意匠の内側スポーク部にみられる前記のような形状に類似するものは広く用いられていたものと認められところであるから、右相違点も本件意匠の特徴を示すものとはいえない。なお、原告はハブ部外周付近を要部中の要部であると主張するが、ディスク部の他の部分、殊にスポーク部等と区別して特にそのように解すべき根拠はみい出し難く、右主張は採用できない。更に<4>についてみると、これらは意匠の観点からみると、いずれも微細な相違点と評すべきものであって、これらが看者の美感に与える影響をさほど大きいものと評価することは困難というべきである。
以上を要するに、原告が主張する各相違点は、いずれもそれらが看者に強い印象を与える程の意匠の支配的な要素となり得るものとはいえず、これらの相違点は、要部であるディスク部の形態的特徴、すなわち前述したような透彫りと浮彫りの地に、ほぼ類似した数の略X字をクロススポーク状に配したメッシュ模様で形成される両意匠の共通する基本的特徴との対比でみると、僅かな相違点ないし改良点に止まるものというべきであり、前記の共通した基本的特徴のもたらす類似した美感を凌駕するに足る程のものとまではいえない。
したがって、前記各相違点に基づき両意匠の非類似性を強調する原の主張及びこれに沿う甲第八号証の鑑定意見(なお、同鑑定意見は、引用意匠一のディスク部にある線状部が透彫りであるとの認定に立脚する点において、前提を異にしているものというべきである。)は失当である。
3 以上のとおりであるから、本件意匠が引用意匠一に類似するとした審決の認定判断に原告主張の誤りはない。
したがって、引用意匠二との類否の判断の当否を検討するまでもなく、審決に原告主張の違法は存しないというべきである。
三 よって、本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、一五八条二項の各規定を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官 田中信義)
昭和63年審、判第16715号
審決
東大阪市長田西5丁目80番地
請求人 株式会社 レイズ
奈良市杉ケ町35番地
請求人 株式会社 クリムソン
東京都港区赤坂1丁目4-10 荒川ビル2F 水野特許事務所
代理人弁理士 水野尚
ドイツ連邦共和国 シルタツハ 7622 アム ホーエンシニタイン 113 アー
被請求人 ベーベーニス クラフトフアールツオイグテクニク アクチニンゲゼルシヤフト
大阪市北区神山可8番1号 福田辰巳ビル
代理人弁理士 鈴江孝一
神奈川県倉市越4丁目7番31号 池田特許事務所
復代理人弁理士 池田清美
上記当事者間の登録第 736655号意匠「自動車用ホイール」の登録無効判事件について、次のとおり審決すろ。
結論
登録第 736655号意匠の登録を無効とすろ。
審判費用は、被請求人の負担とすろ。
理由
〔Ⅰ〕請求人の申立及び理由
請求人は結論同旨の審決を求める、と申し立て、その理由として、本件登録第736655号意匠(以下「本件登録意匠」という)は、その優先権主張の基礎とする第一国の登録出願前に、日本国内において頒布された刊行物に記載の意匠に類似するものであり、また、その登録出頭前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、これ等広く知られた意匠に基づいて容易に創作をすることができた意匠でもあるから、意匠法第3条第1項第3号に該当し且つ同法同条第2項に規定する意匠にも該当するものであるから、その登録は無効とされるべきものである旨主張し、立証のため甲第1号証の一、二、三、甲第2号証の一、二、三、及び甲第3号証の一乃至七を提出した。
〔Ⅱ〕被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と答弁し、その理由として要旨下記のとおり述べた。
すなわち、本件登録意匠は、甲第1号証の一、二、三の意匠(以下「甲第1号証意匠」という)及び甲第2号証の一、二、三の意匠(以下「甲第2号証意匠」という)に類似するものではなく、また、各甲号証の示す意匠から容易に意匠の創作をすることができたものではないから、意匠法第3条第1項第3号及び同条第2項の規定に該当するものではない。
その事由を詳述すれば次のとおりである。
1.甲第1号証意匠に基づく主張に対するもの
(1)新規性について
本件登録意匠と甲第1号証意匠との共通点及び相違点を比較検討し、全体として観察すると、両意匠の共通点は、概念的な構成に係るものであるので類否判断にさほど影響を及ぼすものではない。
他方、相違点は、両意匠の全体感に影響を及ぼすものであって、意匠の類否判断では軽視し得ないものであり、両意匠は要部において相違し、各部の具体的構成態様において著しく相違するから全体感を異にし類似するものではない。
すなわち、
<1>リムについては、本件登録意匠のものは広幅の内方環状面に、偏平円柱状の上面を凹陥し下方に円板状の緑を有するフランジ付ボルトを多数本配設しているのに対し、甲第1号証意匠は、細幅のリムに半球状のリベットを多数本配設したものであって、両者は締金具を多数本配設した点で共通するとしても、その形態の相違とリムの幅の広狭によって美感的には軽量感と重量感という違いを生じさせるから、この相違は顕著である。
<2>デスクについては、この種物品の要部であって重視されるところであるが、(イ)本件登録意匠のものが、内外側スボークを分割構成して内側スポーク(センターブレート部)と外側スポークとの接合部に細線を表し、しかも内外側スポークが太くて丸みがあり、重厚で立体的な形態で表しているのに対し、甲第一号証意匠は内外側スポークを細幅板状で一体に形成していてセンタープレートが無く、しかも内外側スポークが細くて角張っており、軽薄で平面的な形態を明調子に表しているため、両者の相違は著しい。(ロ)特に内側スポークは意匠の創作の基調を成すところであって、類否判断に際し最も影響を及ぼす主要部である。この点において、本件登録意匠は、内側スポークを構成する基本形状を「Y」状としたことによって、内方が大きく五角形状に区画され、しかも「Y」状の垂直部分が、センターキャップの中心に向って集中する放射状の印象を強く惹起させているのに対し、甲第1号証意匠が内側寄りスポークを構成する基本形状を「V」状としたことによって、内方が小さな三角形状に区画され、細幅板状がセンターキャッブの中心に対して屈折した態様を表す点で両意匠は顕著に相違しており、看者に別異の印象を与えている。
<3>センターキャップについては、両者はその厚さと大きさの相違により、重厚感と軽薄感という相反する印象を与える点で偏平六角形状とした共通感を凌駕している。
(2)創作容易性について
次に、審判請求人は甲第1号証意匠から、本件登録意匠が容易に意匠の創作をすることができたものと主張するが、両意匠はメッシュタイプの自動車用ホイールとした点で基本的には共通するとしても、メッシュタイプの意匠は本件登録意匠の出願前から各々別個の意匠として創作され意匠登録されていることも厳粛な事実である。これは同じメッシュタイプの自動車ホイールであっても創作者の個性によって別個の意匠が創作されている事情を物語っている。
2.甲第2号証意匠及び甲第3号証の一乃至七の意匠に基づく主張に対するもの
(1)新規性について
本件登録意匠と甲第2号証意匠を全体として観察すると下記のとおり、要部において相違し、各部の具体的構成態様においても相違するから全体感を異にし、類似するものではない。
<1>本件登録意匠は、スリーピース ホイールのリムの内方環状面に多数本のフランジ付ボルトを等間隔に配設し、ディスクの内側スポークを構成する基本形状を「Y」状とし、センターキャップを偏平六角形状に構成したものである。
これに対し、甲第2号証意匠は、ワンピース ホイールであって、リムの内方環状面にフランジ付ボルトが無く、ディスクの内側スボークを構成する基本形状を「V」状として、センターキャップを偏平六角形状に構成したものである。
とりわけ、リムとディスクの構成熊様については、スリーピース ホイールとワンピース ホイールの構造の相違が外観として現れ、締金具の有無は一瞥して認識されるものであるから、その相違は顕著である。
<2>ディスクについては、この種物品の要部であって重視されるところであるが、
<イ>本件登録意匠のものは内外側スポークが太くて丸みがあり、重厚で立体的な形態を金色に表しているのに対し、甲第2号証意匠は、内外側スポークが細くて板状で角張っており、軽薄で平面的な形態を明調子に表したものであるので、顕著に相違している。
<ロ>特にスポークは意匠の創作の基調を成すところであって類否判断に際し最も影響を及ぼす主要部である。この点において、本件登録意匠は内側スポークを構成する基本形状を「Y」状としたことによって、内方が大きく五角形状に区画され、しかも「Y」状の垂直部分が、センターキャップの中心に向って集中する放射状の印象を強く惹起させるのに対し、甲第2号証意匠は、内側スポークを構成する基本形状を「V」状としたことによって、内方が小さな変形菱形状に区画され、センターキャップの中心に対して屈折した態様を表す点で両者は頭著に相違しており、看者に別異の印象を与えている。
<ハ>センターキャップについては、両者は前面を凹陥平坦面と平滑面に形成した相違と大きさの相違によって、偏平六角形状とした共通感を凌駕している。
(2)創作容易性について
審判請求人は甲第2号証意匠及び甲第3号護の一乃至七の示す意匠から本件登録意匠が容易に意匠の創作をすることができたものと主張するが、両意匠はメッシュタイプの自動車用ホイールとした点で基本的には共通するとしても、本件登録意匠が創作性を有することは前述したとおりであって、審判請求人の主張は概念的にすぎず、創作容易性についての客観的根拠を何ら示していない。
〔Ⅱ〕当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(「登緑意匠第736655号」をいう以下同じ)は、昭和58年(西暦1983年)7月21日ドイツ連邦共和国においてした工業的意匠の国際寄託に関するヘーグ協定出願に基づきバリ条約第4条により優先権を主張して、昭和59年1月20日に出願されたものであって、昭和59年意匠登録願第1844号意匠として審査され、その後拒絶査定されたのでこれを不服として審判を請求したところ昭和61年審判第11448号事件として審決がなされ、昭和63年3月4日登録されたもので、その意匠の要旨は、別紙第一に示す物品「自動車用ホイール」の構成態様からなる下記のとおりのものであることが、本件登録意匠の意匠公報、同登録原簿及び出願書面の記載によって認められる。
すなわち、本件登録意匠は自動車用車輪のタイヤを除いた部分、「自動車用ホイール」(以下 「ホイール」という)の形態についての創作に関するものであり、その全体の構成は概略ホイールの外周の「外輸部」とその内側に固着された「内輪部」とからなり、前者はタイヤを装着する略円筒体を呈するリム部、後者はハブ(車軸に取付ける部分)及びスポーク(車輪の輻)に相当する部分を一体的に形成した略円盤状の部分のデスク部であり、なお、リム部はフロントリム部とリヤーリム部からなっており、デスク部はその前後リム部の間でボルトによって固着され、さらにデスク部のハブ部の中心部の前方側にはセンターキャップ(本件登録意匠のハブ部の構造上の構成は、車軸をハブ部の周縁でボルトで固着し、該部は凹状とした中凹状のものでその表面全体を蓋体・カバープレートで覆いこれを中心部のセンターキャップで固着したもの)を配している。
そして、これらの具体的な構成態様は、リム部がその前後端縁部を段状の円板状に出張らせた全体が略多段状の短円筒のものであり、一方、デスク部は一枚の分厚い円板の外周付近一帯に一定の規則性をもった多数の多角形の透孔を一連に設けてこの部分全体を「地」と「図」の関係として、図を略「X字並び」の環状帯を呈する透彫状のスポーク部としさらにその内側の環状の周緑付近一帯のハブ部外周縁付近(「センターキャップ部」を除く部分)の表面には前記図(略「X字並び」の環状帯)に関連対応した骨格を呈する太い線状部を図として浮彫状に現わし、またその内側の中心付近のハブ部は円形状に残し、そして該部略全体において略六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配している。なお、リム部とデスク部との結合は、正面よりみてデスク部の外周縁端を、その外側に位置するフロントリム部の内周緑端の後方に配して、これらを貫通するボルトによう一定の間隔で固着されている。
さらに仔細に、図としてのスポーク部とハブ部の外周緑付近の構成態様をみると、センターキャップ側よりは、前記のハブ部の内側の中心付近に残された円形状部の周録の等間隔の一定の部分から前記太い線状部が比較的太い隆起状線として極く短く外側へ立ち上りそしてその先端から大きな角度の二叉状(V字状)に分かれ倍増され(したがって該部全体としては小Y字状)そしてその後近隣の隆起状線が相互に交叉しながら外輪部の内周縁端に向って同一パターンが漸次拡大反復する態様(メッシュ状)に斜めに放射され大きくなってその縁端に至るが、その先端付近で奥行のあるものすなわち地の部分が透彫状となるスポーク部のスポーク化した態様を呈し、またスポーク部側からは逆の過程をたどる態様(斜視図参照)でこれらは全体としていわゆるクロススポーク状を呈するメッシュ状に形成され、そしてこれらの隅部はやゝ丸味をもたせたものであって、また、センターキャップ部の頂部及びその基部周縁は暗調子、その他の内論部は明調子としている(本件登録意匠の意匠公報参照)。
2.甲第1号証意匠(「甲第1号証の一、二、三の示す意匠」をいう以下同じ)
請求人引用の甲第1号証意匠は、ドイツ雑誌「auto motor und sport」1983年6月29日号 第11頁所載の図版(イラストレーションと認められる)によって現わされた自動車のその車体に装着された車輸のうちの自動車用ホイールに係るものであって、その要旨は、別紙第二に示す前記の物品「自動車用ホイール」の構成態様からなる下記のとおりのものであることが前記図版によって認められる。
すなわち、甲第1号証意匠は自動車用車輪のタイヤを除いた部分、「自動車用ホイール」(以下「ホイール」という)の形態についての創作に関するものであり、全体の構成は概略ホイールの外周の「外周部」と、その内側に固着された「内輪部」とからなり、前者はタイヤを装着する略円筒体を呈するリム部、後者はハブ(車軸に取付ける部分)及びスポーク(車輪の輻)に相当する部分を一体的に形成した略円盤状の部分のデスク部であり、デスク部はボルト状のもので固着され、そしてデスク部の中心部のハブ穴に相当する部分の前方側にはセンターキャップ(ハブ部の構造上の構成は大別して二種あり、このハブ部のそれは、必ずしも明確ではないが、車軸をハブ穴で固着したタイブと推定され、ここに配されたものを「ハブキャップ」と称することもできるが、主としてその構造にかゝるものであるから、ここでは「センターキャップ」と称する)を配している。
そして、これらの具体的な構成態様は、リム部がその前端縁部を段状の円板状に出張らせた全体が略多段状の短円筒のものであり、一方、デスク部は一枚の分厚い円板の外周付近一帯に一定の規則性をもった多数の多角形の透孔を一連に設けてこの部分全体を「地」と「図」の関係として図を略「X字並び」の環状帯を呈する透彫状のスポーク部としさらにその内側の環状の周縁付近一帯のハブ部の外周縁付近(「センターキャップ部」を除く部分)の表面には前記図(略「X字並び」の環状帯)に関連して対応した骨格を呈する太い線状部を図として浮彫状に現わし(該部が透孔としたものか、浮彫状としたものかは不明な点もあるが該部を精査すると例えば該部のスポーク状部の交叉部において、地の部分が透孔であれば、現われるべき奥行方向を示す線が表現されていないこと及びこの種メッシュタイプのホイールの該部に関する証拠を勘案するとそう緊するのが相当である)、またその内側の中心付近のハブ部は円形状に残し、そして該部略全体において略六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配している。なお、リム部とデスク部との結合は、正面よりみてデスク部の外周縁端を、その外側に位置するフロントリム部の内周縁端の後方に配して、これらを貫通するボルト状のものにより一定の間隔で固着されている。
さらに仔細に、図としてのスポーク部とハブ部の外周縁付近の構成態様をみると、センターキャップ側よりは前記のハブ部の内側の中心付近に残された円形状部の周縁のそれぞれ等間隔の一定の部分から前記太い線状部が二本一対とした比較的太い起立状線として大きな角度の二叉状(V字状)に分れその後近隣の起立状線が相互に交叉しながら外輪部の内周縁端に向って同一パターンが漸次拡大反復する態様(メッシュ状)に斜めに放射され大きくをってその縁端に至るが、その先端付近で奥行のあるものすなわち地の部分が透彫状となるスポーク部のスポーク化した態様を呈し、またスポーク部側からは逆の過程をたどる態様でこれらは全体としていわゆるクロススポーク状を呈するメッシュ状に形成されこれらの隔部を明確に現わしたものであって、また、センターキャップ部の頂部を暗調子とし、その基部の円形状部を中間調子としている。
なお、甲第2号証意匠(「甲第2号証の一、二、三の示す意匠」をいう以下同じ)は次のとおりのものである。
甲第2号証意匠は、ドイツ雑誌「auto motor und sport」1982年12月29日号 第37頁所裁の写真版により現わされた自動車に装着された車輪のうちの自動車ホイールに係るものであって、その要旨は、別紙第三に示す前記の物品「自動車用ホイール」の構成態様からなる下記のとおりのものであることが認められる。
すなわち、甲第2号証意匠は自動車用車輪のタイヤを除いた部分「自動車用ホイール」(以下「ホイール」という)の形態についての創作に関するものであり、その全体の構成は概略ホイールの外周の「外輪部」と、その内側に固着された「内輪部」とからなり、前者はタイヤを装着する略円筒体を呈するリム部、後者はハブ(車軸に取付ける部分)及びスポーク(車輪の輻)に相当する部分を一体的に形成した略円盤状の部分のデスク部であり、デスク部はリム部に一体的に溶着され、そしてデスク部の中心部の前方側にはセンターキャップ(この意匠のハブ部の構造上の構成は、車軸をハブ部の周縁でボルトで固着し、該部は凹状とした中凹状のものでその表面全体を蓋体・カバープレートで覆いこれを中心部のセンターキャップで固着しているものと認められる)を配している。
そして、これらの具体的な構成態様は、リム部がその前端縁部を段状の円板状に出張らせた全体が略段状の短円筒のものであり、一方、デスク部は一枚の分厚い円板の外周付近一帯に一定の規則性をもった多数の多角形の透孔を一連に設けてこの部分全体を「地」と「図」の関係として図を略「X字並び」の環状帯を呈する透彫状のスポーク部としさらにその内側の環状の周縁付近一帯のハブ部外周縁付近(「センターキャップ部」を除く部分)の表面には前記図(略「X字並び」の環状帯)に関連して対応した骨格を呈する太い線状部を図として浮彫状に現わし、またその内側の中心付近のハブ部は円形状に残し、そして該部略全体において六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配している。なお、リム部とデスク部との結合は、正面よりみてデスク部の外周縁端を、その外側に位置するフロントリム部の内周縁端面と面一致状に配して固着されている。
さらに仔細に、図としてのスポーク部とハブ部の外周縁付近の構成態様をみると、センターキャップ側よりは、前記のハブ部の内側の中心付近に残された円形状部の周縁のそれぞれ等間隔の一定の部分から前記太い線状部が二本一対とした比較的太い起立状線として大きな角度の二叉状(V字状)に分れその後近隣の隆起状線が相互に交叉したがら外輪部の内周縁端に向って同一パターンが漸次拡大反復する態様(メッシュ状)に斜めに放射され大きくなってその縁端に至るが、その先端付近で奥行のあるものすなわち地の部分が透彫状となるスポーク部のスポーク化した態様を呈し、またスポーク部側からは逆の過程をたどる態様でこれらは全体としていわゆるクロススポーク状を呈するメッシュ状に形成されこれらの表面の隅部を明確に現わしたものであって、また、センターキャップ部の頂部及びハブ部の地の部分は暗調子、その他の部分は明調子としている。
3.本件登録意匠と引用意匠との比較検討
本件登録意匠と甲第1号証意匠と比較すると、両意匠は同一の物品に係りその構成態様においても、リム部とデスク部の結合具の具体的な構成態様及びメッシュ状に形成された表面の隅部の丸味の有無等その仔細な態様を除き略共通しており両意匠の要旨は相互に略共通する。
そこで、これら両意匠の共通点及び差異点を意匠全体として観察してその類否について述べる。
先ず、基本的にはホイール(この場合一般に「軽合金製ホイール」を指す)の形状は、タイヤが装着される円筒状の「リム部」と車軸に固定する「デスク部」の二つの部分で構成されているが、さらに製法上の要請等からリム部を2分割するいわゆる3ピースタイプのものが存在することは良く知られているが、本件登録意匠のものはホイールの構造上、前記の構成部品の結合態様から分類されるもののうち、後者に属するものであることは明らかである。ところで、請求人の主張及び証拠によれば一般にホイールの形状においてリム部はタイヤが装着されるためほゞその形式が定まっており、請求人も要部とするところ、一般には意匠の創作はデスク部を中心に工夫されるものであると認めることができる。そしてこのデスク部の態様はその発展過程から略三つのタイプ、すなわち、デッシュタイプ、スポーク(木製)タイプ及びメッシュタイプに分類されることも顕著な事実であり、そして被請求人が指摘するように本件登録意匠のものはクロススポーク状のものからなるメッシュタイプのものに属することも明らかである。メッシュタイプのものは原型をワイヤースポーク(殆んどクロススポーク状を呈するので以下「クロスワイヤースポーク」という)の形状から発したものとされるが、そこで本件登録意匠についてみると、具体的にはデスク部は車軸取付部(ハブ部及びその周縁部)と事実上のスポーク部に相当する部分(透彫状の環状部)に分かれているが、本件登録意匠のこれらを総合し意匠の主題と認められる図すなわち、クロススポーク状を呈するメッシュ状を全体としてみると、その態様は当該タイプの原形ともいえるクロスワイヤスポークの抽象化された態様(一般に交点が3カ所程度のクロススポーク状を呈するもの)全体を基部迄損うことなくかなり忠実に模したものといえる(甲各号証参照)。そしてそれは本件登録意匠のハブ部の構造上の構成のものにおいて引用意匠甲第2号証意匠と同様にハブ部周辺の車軸取付ボルト部を凹ませ該部を蓋体でカバー(被請求人のいう「内側スポーク(センタープレート部)と外側スポークとの接合部の細線を表し」とするその内側の部分、昭和60年11月14日付の意見書添付写真版中の「着脱自在なカバーブレート」と称している部分)し、その表面にセンターキャップ基部までにスポーク部のスポーク状のものの骨格に対応する太い線状部仔細には隆起状線を連続して形成するようにして、全体して前記認定の如きクロススポーク状を呈するメッシュ状を現わした点を特徴とするものであると認められる(甲第3号証の五及び六、「ゴールドCARトップ['82輸入国産CAR用品カタログ]昭和57年3月10日号」第69頁及び同第74頁所栽メッシュタイプホイールの各写真版、参照)。
そして甲第1号証意匠は、ハブ部の構造上はハブ穴(センターキャップ部に相当)に直接車軸を軸着したものと認められるが、本件登録意匠のものが蓋体を介して結果的に引用意匠と同様の意匠的特徴を奏するものとしたということができる。すなわち、両意匠はセンターキャップ及びその基部を共通とするとともにそのクロススポーク状を呈するメッシュ状の構成態様を全体としてみるとその基部の円形周縁から外輪部内側に至る態様としてデスク全体にクロスワイヤースポーク状を呈するように浮彫状部及び透彫状部において地と図の関係としてこれらを統合的に関連させて連続してその全体を損うことなく明確に現わしたものといえ、その構成態様は前記認定のとおりであって、そこに抽出される特徴はこれを両者が共有するものであり、そして前記認定・判断に鑑みればデスク部におけるこの特徴が両意匠の類否を支配的に左右する主要部である。
一方、そのスポークのメッシュ状のクロススポークを模した太い線状部において仔細には隆起状線か起立状線かの差異及びその表面隅部に丸味をもたせたかどうかに差異がある。しかし一般に隅部を隅丸状とすることは形状の処理として極めて普通のことであることは勿論、前記認定のこの程度の差異は極端なものではなく本件登録意匠のものはこの種物品においてその出願前に存在する引用意匠の該部について類形(変形)を得るために普通に使用される慣習化された手段(常套的手段)によって得られる変形程度のもの(商業的変形に属するもの)で、この種物品の意匠的評価水準に照らして新規性がなく、共通点における表現上の微細な差異というべく、これが前記共通点が奏する意匠上の基調を到底左右するものではない。また、調子の差異(彩色を含め)も同様のことからその差異は弱い(当該登録意匠公報及びその原本、甲第3号証の一乃至七参照)。
そこで被請求人の主張事由について言及するに、先ず[Ⅱ]の(1)の<1>のリムについて、その差異は殆んど認められない。すなわち、仮りにその幅に差異はあるとしてもそれは単なる比率の差異で意匠上その段差が奏する特質を左右する要因ではない。さらにボルトとリベットを区別する主張についても引用意匠のものがボルト状の突状の固着具が一定の間隔で配されていることは明らかで経験則上これをボルト相当のものと解してよく、本願登録意匠のものが特別のものでないことからこの点でも酷似すると判断せざるを得ない。ちなみに請求人は本件登録のものは、「下方に円板状の縁を有するフランジ付ボルト」と主張するが、本願意匠を現わした当該出願書類の図面代用写真によればフランジ部の無いものである(筒胴内側角形状と認められる)が、もっとも、その優先権主張の基礎とした優先権証明書に添付の第一国に登録出願されたものには認められる(フランジ付角形柱状と認められる)が本願登録意匠におけるこの程度の変更は意匠上さしたるものではなく(また前者は一般にボルト頭として極く普通のもので後者もさしたる新規性のない普通のものである)指摘する程のものではない。ましてもとより優先権証明書は我が国の意匠登録出願における添付図面代用写真としての性質または効力をもつものではないから、したがってこの点に関する両意匠の差異点の評価ても前記のとおりに判断するのが相当である、上同項の<2>デイスクについて、本件登録意匠のものは、「内外側スポークを分割構成して内側スポーク(センタープレート部)と外側スポークとの接合部に細線を表し」と主張するが、その線状は着脱自在なカバープレート(ハブ部の車軸取付ボルト配置凹部のカバー(昭和60年11月14日提出の意見書添付写真版参照)、答弁書では「センタープレート部」)とその周縁部との接合線にすぎず(調子の差異はめて微細であえていえば材質の差異程度である)、それは、むしろその表面に現わされた太い線状部(図)の奏する流れによってデスク部全体が相互に関連する一体的なものとして現わされたものと認識される。すなわち、これは全体としてクロススポーク状を連想するメッシュ状に現わした点にその造形処理上の課題が認められこの点が本願登録意匠の主要部を構成し奏出すると認められるものであり、その主張は合理性に欠ける(なお、カバープレートを配するようにしたことは本件登録意匠独自のものではなく新規性のないものであることは甲第2号証意匠から明らかである)。さらにスポーク若しくはスポーク状部(太い線状部)の太さ、丸み及びその平面の調子について主張するが、前記したようにその差は弱い。前記判断について事実に即して詳述すれば、本件登録意匠の斜視図を参酌すれば明らかなように立体としてその奥行も考慮してみれば、板状体を交叉させた態様の視認性が強く働きその差は局部的で、また極めて微弱、微細な表現上の差異にすぎないことは明らかである。また、スポーク状太線状部のセンターキャップの基部において外側への立ち上り状(Y字状)としたのも、単にクロススチールスポークの内側端部の態様の一つを模したもので、それもメッシュタイプのものとして本件登録意匠独自なものではなく(例えば、審査での拒絶査定の理由に引用された意匠の該部が参考となる他に事例は顕著)新規性に乏しく、さらに立体としてはメッシュ状部は二叉状部またはこれを基点とし反復する相似形状の部分の方が重奏していて視認されやすく(斜視図参照)指摘されるこれらの差異はいずれも局部的若しくは微弱なものである。上同項の<3>のセンターキャップの態様についても止め具のナット頭の態様としてこの種物品において周知のものであるところ、比率の差異はその特質を左右せずその特有の形態を共有するものでこの点、斜視図によりその類似性は明らかであって(甲第2号証の一、二、三)、さらに着色または調子の差異についても前記のとおり本願登録意匠のものが特別なものではなく、この種物品の極く普通の類形的な差別化の手法による変形に属するものであり何ら特徴あるものといえない(本件登録意匠公報、同原本及び甲第3号証一乃至七参照)。
このようにこれらの差異はいずれも引用の意匠に比して本件登録意匠の新規性若しくは独自性を奏するものといえず、これらの差異点を総合しても、前記主要部の共通点が奏する基調に影響を与えるものではなく、その他リム部及びナット状部も含め他に共通点のある両意匠は全体として相互に類似すると判断せざるを得ない。結局、一般に意匠法の保護の対象としての意匠の類否を判断するにあたっては、それが独自に創作されたか否かにかゝわらずそれぞれそこに提示された表現手段により現わされた意匠が奏するその本質的た態様・特徴を抽出し、この種物品分野に属する意匠の創作の水準に照らし評価すべきところ、前記のとおりこの点の配慮を欠く被請求人の主張は妥当性を欠き採用の限りではない。
以上のとおりであって、そして甲第2号証意匠は本件登録意匠の出願前に日本国内及び外国において頒布された刊行物に記載のものであることは勿論、甲第1号証意匠も本件登録意匠の出願前には少なくとも外国において頒布された刊行物に記載のものと認められるものであり、したがって、本件登録意匠第736655号の意匠はその出願前に外国において頒布された刊行物に記載のものに類似し意匠法第3条第1項第3号に該当するものであって、本件登録意匠については、意匠法第3条第1項に規定する意匠登録の要件を具備しないにかゝわらずこれに違反して登録されたものてあるから、その登録は無効とすべきものとする。
なお、他に当事者間に主張するところがあるが、審決をするにつき影響しないので言及しない。
よって、結論のとおり審決する。
平成1年9月21日
審判長 特許庁審判官 野口勇
特許庁審判官 田辺隆
特許庁審判官 山田啓治
別紙第一 本件登録意匠
意匠に係る物品 自動車用ホイール
意匠の説明 右側面図は左側面図と対称
意匠目録一
<省略>
意匠目録二
<省略>
意匠目録三
<省略>